F16 E.Sakai

前回は、私が携わった仕事の中で、放送に使われる記録メディアがフィルムからビデオテープへと変わっていく様子を書きました。
時代の流れ、技術の進歩は早く、一世風靡したものが早くも去っていく姿は寂しいですが、新たな一歩が踏み出されるワクワク感も感じられ、複雑な心境になります。

さて、今回は、放送用ビデオの記録方式の変遷について纏めてみました。
一部、 一般用についても記述していますので、馴染みのあるものも含んでいます。
少々専門的になりすぎる面もありますが、こんな事もあったのかと気軽に読み飛ばしてください。
いつもながら、思い込み・勘違い等あると思いますがご容赦ください。

日本における放送用ビデオ機器は、当初、海外メーカー品でしたが、のちにSONYとPanasonicの2社がしのぎを削って開発し、世界的なシェアを持つことになりました。
以下、概ね時代を追って纏めました。

【2インチVTR】
1960年代に登場した初期のビデオテープレコーダーで、テープ幅が2インチであることから「2インチVTR」と呼ばれます。この方式では、放送局や制作会社で使用され、映像・音声の品質は当時のアナログ方式としては非常に高かったとされています。

【1インチVTR】
1970年代に登場した1インチVTRは、2インチVTRよりもコンパクトで、より一般的に使用されました。また、1インチVTRは、いくつかの異なる規格があったため、時代や地域によって異なる方式が使用されていました。

【U規格】
1971年にソニーが開発したU-maticは、さらにコンパクトな規格であり、より一般的なビデオレコーダーとして普及しました。U-maticは、放送局や制作会社での使用に加えて、企業内の研修用や学校での教材としても使用されました。

【M規格】
家庭用ビデオテープ規格であるVHSのコンポーネントを活用して松下電器 (現:パナソニック) が米RCAと共同開発したアナログコンポーネント記録の放送業務 (ニュース取材) 用カセット式VTR。1981年にMビジョンのブランド名で発売されました。
この頃のビデオカメラを使用したニュース取材 (ENG) では、カメラとVTRとが分離式であるためフィルム利用と比べて機動性が落ち、人件費がかさむだけでなく、当時主流であったU規格では多数回のダビングに耐えられない問題が存在しました。これらの問題を解決すべく、カメラとVTRとを一体型としたカムコーダ型とし、輝度信号 (Y) と 色差信号 (I, Q) とを分離記録するコンポーネント記録方式を採用したものです。
直後にソニーから同コンセプトのベータカムが発売になると販売は伸び悩み、多くの放送局で採用されることは有りませんでした。

【Betacam】
1982年にソニーが開発したBetacamは、放送局での使用に特化したカセット式ビデオレコーダーで、高品質な映像を記録することができました。
それまでENG取材に用いる機材は、ビデオカメラ部と、U規格などのVTR部が別々になっていて、カメラを担いだカメラマンの後には、ケーブルで繋がれたVTRを持つビデオエンジニアが付いて回るという2人1組、もしくはカメラマン1人が両方を担ぐという機動性に欠ける取材を強いられていましたが、ベータカム方式のカメラ一体型VTRが登場したことにより、ビデオカメラとVTRが同体化(カムコーダ)されケーブルから解放されたカメラマンの機動力は飛躍的に向上する事となりました。
その後、さらに改良が加えられ、Betacam SPなどのバージョンが登場しました。

【MⅡ】
松下電器がNHKと共同開発したアナログコンポーネント記録の放送業務用カセット式VTR。1985年にNHK各放送局で使用を開始、1986年に発売されました。
M規格の後継として、メタルテープを採用し高画質化を図った。
ソウルオリンピック公式記録ビデオ方式に選ばれ、NHKには大量導入された。しかし、既にソニーのベータカム方式が世界中の放送局で事実上の標準方式となっており、その後メタルテープを採用したベータカムSPの登場で追随された事もあってNHK以外ではベータカムの牙城を崩すことはできなかった。

【DVCAM】
1990年代後半に登場したDVCAMは、MiniDVと同じビデオテープを使用する、より高品質な規格です。DVCAMは、放送局や制作会社で使用されることが多く、一部のハイビジョン番組でも使用されました。

【HDCAM】
1997年にソニーが開発したHDCAMは、高品質なハイビジョン映像を記録することができる規格です。その後、新しい圧縮技術(MPEG-4)を使ったHDCAM-SRやメモリーメディアを使ったSR MASTERが投入された。
HDCAMは放送局や映画制作などで広く使用された。

以上が、放送用ビデオ記録方式の主な変遷です。技術の進歩や市場のニーズに応じて、より高品質で効率的な記録方式が次々と開発され、現在では、次のデジタルビデオ方式が主流となっています。

【D1】
1986年にソニーとBTS(現在のGrass Valley)がD1規格に対応するVTRを発売。デジタル方式の放送用ビデオテープレコーダーで、映像・音声の品質が非常に高かったため、放送局や制作会社で使用されました。D1は、放送業界でのデジタル化の先駆けとなり、後に登場する多くのデジタルビデオ規格の基盤となりました。

【D2】
1988年にソニーとアンペックスが開発したD2は、D1と同様にデジタル方式の放送用ビデオテープレコーダーで、D1に比べて安価であり、一般的にも使用されました。しかし、D2はD1よりも品質が劣り、D1に代わって主流になることはありませんでした。

【D3】
1991年に登場したD3は、D1と同様の高品質な映像を記録することができ、D2よりも高品質であったため、一部の放送局や制作会社で使用されました。しかし、D3はD1と同じ大きさで、D1との互換性がなく、高価であったため、一般的には普及しませんでした。

【Digital Betacam】
1993年にソニーが開発したDigital Betacamは、高品質なデジタル映像を記録することができる放送用ビデオテープレコーダーで、放送業界で広く使用されました。Digital Betacamは、既存のBetacam SPと同じテープを使用でき、編集も容易であったため、一般的なビデオ制作でも広く使用されました。

【DV / MiniDV】
1995年に登場したDVは、家庭用のデジタルビデオカメラで、小型・軽量でありながら高品質な映像を記録することができ、大きな反響を呼びました。後に登場したMiniDVは、同様の規格で、DVと同じテープを使用することができます。DV / MiniDVは、放送業界での使用は限られましたが、一般的なビデオ制作や個人での使用に広く普及しました。

以上が、放送用デジタルビデオ記録方式の主な変遷です。現在では、ハイビジョン・4K対応の規格が開発され、放送業界や映画制作などで使用されています。

放送用のハイビジョン・4K対応記録方式は、以下のような規格があります。

【HDCAM SR】
ソニーが開発した、高品質なハイビジョン映像を記録できる規格で、映画やドキュメンタリー制作、放送番組などで広く使用されています。4:4:4色差サンプリングにも対応し、最大440Mbpsのビットレートで記録できるため、非常に高品質な映像を記録することができます。

【DVCPRO HD】
パナソニックが開発した、ハイビジョン映像を記録する規格で、ビデオカメラやVTRなどで使用されます。最大100Mbpsのビットレートで、ハイビジョンの画質を記録することができます。さらに、P2カードに記録することもでき、高速なデータ転送が可能です。

【XAVC】
ソニーが開発した、4K解像度の映像を記録するための規格です。4K(3840×2160)の映像を60fpsまで、またフルHD(1920×1080)の映像を240fpsまで記録できます。また、高品質な音声録音にも対応しています。

【ProRes】
アップルが開発した、高品質な映像を記録するための規格で、主に映画やテレビドラマの撮影で使用されます。さまざまな解像度に対応し、編集時の扱いやすさにも優れています。

これらの規格は、放送局や制作会社、映画製作会社などで使用されており、高品質な映像制作に欠かせない存在となっています。また、4Kに代表される高解像度映像に対応した新しい記録方式も、登場してきています。

以上、2回に亘って放送メディアの移り変わりについてお送りしました。
今後もどんどん変化していくと思いますが、私はついていけないかなぁ・・・・

※ 写真出典:wiki media common 他